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熊本 ダイヤモンドシティ・クレア

2007年

熊本市の南隣、嘉島町に超大型ショッピングセンター「ダイヤモンドシティ・クレア」があります。熊本県は、県政の大きな柱としてUDを取り組んでおり、それを具現化した施設となっています。

多くの利用者ヒアリングや、「五感を刺激する環境デザイン」で有名な摂南大学の田中直人教授が監修指導しました。館内案内の冊子にもUDを前面に押し出し積極アピール。UDであることをブランド化した施設でもあります。冊子にはUDに関わった人達として、建築会社やデザイン会社など複数名が記名されており、情報公開も明確です。現状、日本で考えられるUDの叡智が結集された施設であるといっても過言ありません。

 

郊外の大型ショッピングセンターですから、巨大な駐車場があります。メインの建物は2階建て。上下移動が少ない平面構造。それを取り囲むように駐車場があります。すべて無料!四方に道があるため出入口も多く快適です。バンプ(凸)がありますが、車の出入りが多いため歩行者がちょっと危険です。設計上の問題ではなく、マナーの問題ですね。日本の運転者は歩行者優先をしませんから。

通常の駐車スペースも十分に広く、駐車しやすく、降りやすいのですが、更にもっと幅の広い「ゆとりの駐車場」がありました。もちろん駐車場の一番遠い部分。駐車スペースが広ければ、障害者、車いす、高齢者関係なく、誰もが使いやすいもの。土地が広いからこそ出来るUDですね。右写真のように少しゆとりがあるだけでも十分優しいですよね。

  

普通の駐車場が十分広いのですが、障害者用駐車場も整備されていました。一番入口に近く、屋根つき。地方になればなるほど、一般の人が駐車する問題が起きます。その問題を防止するため、機械を設置しています。インフォメーションでコインをもらわないと出庫できないのです。これで不正駐車を予防しています。モラルの低さをシステムで解決。ただ、私は使い方もよくわからいし、面倒なため、「ゆとりの駐車場」に停めました。多様なタイプがあるのは嬉しいですね。

障害者用駐車場の隣には、高齢者運転標識(高齢者マーク、紅葉マーク、枯葉マークなどと言われる)がありました。初めて見ましたが、良い施設ですね。ステッカーのある車だけが停めれるので明確です。それに引き換え、障害者用駐車場は誰が停めていいのか法律や条例上も不明確でルールがありません。障害者手帳があれば停めていいのでしょうか? 知的も? 精神も? 聴覚障害も? 一時的に車いすを利用する人や、病人、高齢者はどうなのでしょう? 困っている人が利用できるのが良いですね。ルール作りは今後必要です。独自ルールを規定し、ステッカーを交付しようとする自治体も現れてきていますね。

私が最も注目したのは、床でした。米国のADA法では、絨毯の長さの規定がありますが、あまりにふかふかだと(高級ホテルのロビーなど)車いすが進まない。絨毯は音を吸収する、疲れにくいという役割もあるので、すべてをつるつるの床にはできない。上記写真のように、熊本ダイヤモンドシティでは、店舗前を、ベビーカーや車いす、ショッピングカートが動きやすいようにデザイン。通常の床も、摩擦係数が少ないものを採用しております。さすがUDを強調するだけあり、よく考えられています。

 

「障害者用トイレ」という呼称ではなく、「多機能トイレ」とされていました。車いすマークが基調ですが、高齢者や内部疾患、子ども連れなどもマークに入っています。サインのUDも採用され、色による違いを明確にしています。「多機能トイレ」は黄色ですね。しかし、このトイレをUDと言っていいのか私は疑問を感じます。あまりに豪華だからです。色んな設備がたくさんあります。ハイスペックになりすぎる=コストもスペースも取る。UDの理念の一つはシンプルや価格妥当性もあると思います。障害者側の要求が高すぎたりする日本の現状を考えると仕方がないことかもしれません。

  

通常のトイレの中にも、車いすで利用可能なスペースの広いトイレがありました。これこそUDトイレですね。こちらが標準となり、どのトイレにも作って欲しいものです。コストはかからない。引戸にすればいい。デザインの色が青(男子トイレ)なので、一般利用であることを示しています。「大きめのブース」との表示ですね。

 

洗面台も高さが違うのを用意。足元を広くして車いすでも入れるように工夫されています。UDデザインを採用するだけあって、一般トイレでも配慮がきっちりされています。しかし、配管がむき出しなのは残念。後から取り払ったからでしょうか? うまく板をはめこめればいいのでしょうが。

エレベーターのボタンが巨大なことに驚きました。押しやすいです。ボタンが少ないので、大きくできるのでしょう。諸所で色んな工夫がされています。

  

時間があったので映画を見ました。シネコンは別会社の運営ですが、配慮に工夫があります。通常、車いす席は上記写真のような構造であれば、スロープの入口付近になります。中央部分にはならない。UDを標榜するショッピングセンターの中であるから、車いす席も良い場所になるのでしょう。とはいえ、2番スクリーンで見ましたが、前なので疲れました。もう少し後ろになると嬉しいのですが、階段座席のため、他の列に移動できないのでした。。。

現状、考えられる最善のデザインかと思いましたが欠点がありました。座席に移りたいとき、手すり、肘掛けが邪魔になるのです。手すりが可動式で動くと更に良いのですが。車いすの人が座席に移動することは想定されていないようでした。他の映画館もそうですが。とはいえ、普通座席と一緒に列になって座れるようにデザインされているのは素晴らしいです。