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米国留学 報告書
(9)
 
2002/09 - 2003/08

クリエーティブ グロース アートセンター


Creative Growth Art Center

オークランド市ダウンタウンにある、クリエーティブ・グロース・アートセンターは、1973年の設立。精神的、身体的、経済的に障害を持つ成人(主に知的に障害を持つ人)に対して、芸術創造のプログラムや自立のための教育、職業機会を提供しているNPO(非営利組織)。障害を持つ人に、芸術的な表現/発言を発達させる機会を提供し、表現の可能性を追求している。また、障害と芸術のかかわりについて興味のある人に対し、調査やトレーニングの機会も提供している。

趣のある外観をもつ建物を入ると、まずギャラリーが飛び込んでくる。このセンターのアーティスト達が制作した作品が、展示され、販売されている。エネルギーのある作品ばかりで、その質の高さに驚かされる。センスのいいギャラリーである。いい作品には、買い手がついている。売却済のシールがあちらこちらで張られているのも納得。ギャラリー展示は、1年間何かが常に行われている。テーマは2ヶ月に1度変わるとのこと。

アーチストの中には、既に多くの顧客を持つ人がいる。下の写真下にある、糸をグルグル巻きつけた Judith Scott の作品は、4500ドルで売られていた。ニューヨークの現代アートシーンでは、200万円とかで売られ、買い取られている。

彼女の作品は図抜けて高いが、他の作品の値段は、50ドル~300ドル。お手頃な価格が、このセンターの特徴でもある。微妙なさじ加減のうまさで作品が売れていく。作品が売れたら、そのお金は基本的に、センターと製作者、50%ずつの取り分になっている。

展示は、このギャラリーだけにとどまらず、アーティストや作品を紹介するために、他のギャラリー、美術館、企業のロビー、コミュニティースペースにも展示されることがある。広く一般に向けて、障害を持ったアーティストの可能性を示すものとなっている。

また、作品を展示販売することは、彼らの収入になるだけでなく、アーティストとしてのプライドをもつ機会になっている。展示会のオープニングに参加し、いろんな人との交流できるのも楽しい。作品を購入している顧客は、コレクター、インテリアコーディネーター、病院、だそうです。


アートスタジオ

ギャラリーで、作品のレベルの高さに驚いた後、すぐ隣にある制作現場を見学する。たくさんのアーティストが、それぞれのスタイルで自由に創作活動に取り組んでいる。近づくと、気軽に話し掛けてきて、作品の説明、制作意図などを語りだす。パワーのある作品を作る彼らは、きっちりと自分が制作しているものの説明ができるのだ。スゴイ!

この工房での制作は、プロフェッショナル・アートスタジオ・プログラムと呼ばれる。アート活動を通して自立を目指す障害を持つ人のためのプログラム。各自の必要に応じて、絵画、陶芸、彫刻、版画、木工などのクラスに参加する。それぞれに、専門のアーティストが創作活動の環境を整え、彼らをサポートする。また、創作活動を楽しむだけでなく、ここでの経験を通して彼らが成長していくことを目指している。

スタジオに通うアーティストの移動については、センターは関与していない。他の地域サービス、NPOなどが、彼らの住居とセンター間の輸送を手伝っている。毎日来るアーティストもいれば、週に1回の人もいる。興味がなくなってこなくなる人もいる。このセンターで活動を行うには、リージョナルセンターのソーシャルワーカーが本人の適性、興味、才能を考慮して判断している。高校生の夏季体験プログラムもある。いずれも人気があり、選抜されている。

スタジオの環境は、とてもいい。作品も販売されるので、質の良い材料が使われていた。寄付でもらえるころもあるそうだが、ほとんどは購入しているとのこと。ちなみに建物は寄付され、センター所有になっているので、家賃はかかっていない。

指導するアーティストは、フルタイム、パートタイムのスタッフも混ざり、一日に、6~7名ほど。オークランド市教育局からも、美術教師が何名かパートタイムで派遣されている。いずれも絵が好きで老後に時間ができた、主婦で時間がある、とかといった人ではない。バリバリ現役のアーティストが指導するからこそ、このセンターのレベルが非常に高いのである。

センターに通うアーティストは、1日38ドル(約5000円)のレッスン代を支払う。このレッスン代は、オークランド市リージョナルセンターに申請し、市から料金が支払われる。38ドルという料金は、市の施設評価によって上下変動する。つまり、意味のある質の高い活動を行っている施設には、多く支払われるようになっている。

センターの一年間の総予算は、約2億円。50%がレッスン代から、50%弱がギャラリーでの作品販売による売上から。そのほかの収入源として、メンバーシップ会費、企業や財団からの助成金がある。メンバーシップ費は、15ドルから、2500ドル以上まで。すべて個人寄付。特典として、作品購入時の10%ディスカウント、展覧会レセプションパーティーの招待状が送られる。

センターの常勤スタッフは10名ほど。運営、スタジオ、ギャラリー、3つの専門に別れる。無償ボランティアは年間20名ほどが参加するも、ボランティアを頼りとした運営は全くされていない。

陶芸をしている女性。詩を詠むのが得意で、詩集がギャラリーで販売されている。彼女は日本の京都にあこがれており、日本語を勉強していた。

クレヨンで作品を作る Raydell Early。彼のクレヨン箱は、小さいクレヨンが何百も詰まっていて、それを整理、吟味しながら、もくもくと作成。ギャラリーにあった彼の作品が素晴らしく、私はそれを購入しちゃいました。

これは、ラグ/タペストリー制作現場。一つ一つ、毛糸がキャンパスに打ち込まれていく。このプロジェクトは、仕事感覚。デザイン、製作者には、その労働に対し、時給が支払われている。センターに通う人の収入を得る機会を提供するものとなっている。ラグ/タペストリーが売れた場合は、15%がデザイナー。85%がセンターの取り分となっている。

木工の工房。家具に絵を書いて新しいものに生まれ変わらせます。やさしいデザイン、タッチ、色合いが、とてもいいです。子ども部屋、学校、病院などに最適。この家具を制作している David と記念撮影してきました。

このセンターは、様々な文化、経験、背景を持つ人々が利用しています。それぞれの障害、個性によって、それぞれに「アート(表現)という言語」が使用されている。指導する、スタッフ、ボランティアにとっても、センターでの活動は非常に刺激的なものになっている。センターの自由に表現するアーティストに触れて、強いインスピレーションを与えられた人も多い。

機会があれば、ぜひ訪問して、ギャラリーとスタジオを探検してください。アーティストやスタッフ、ボランティアと話をすることで、芸術表現の本当の可能性とパワー、それが、希望、癒し、コミュニティーに対する帰属感を与えることだと感じることでしょう。


全米で、クリエーティブ・グロース・アートセンターのような組織は、30ほどあるとのことです。ベイエリアでは、サンフランシスコに、クリエーティビティ・エクスプロ-ド。リッチモンドにNIADアートセンター、という組織があります。

世界にも、同様の活動をしているNPOは、たくさんあるとのこと。しかし、このセンターはレベルの高さ、販売をビジネスとして成立しているのがスゴイと思います。


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